アルファサード株式会社 代表取締役 野田 純生のブログ


障害児への日本語教育と「やさしい日本語」とICT活用


公開日 : 2021-12-25 10:00:00


「やさしい日本語」は日本人・障害者の役にも立つのか?

やさしい日本語=日本に住む外国人のため、というイメージが強いですが、障害者の人(知的障害者、LD、ろう者、聴覚障害者など)にも有用である、とも言われています。とはいえ、鵜呑みにしてしまうのも何かと思いますし、やさしい日本語の Advent Calendarを立ち上げて日々書いているのも良い機会なので、今月ひたすら本を読む月間としました。

12月に読んだ本 / ひらがなで話す技術 / ろうと手話 / 差別はたいてい悪意のない人がする / ディスレクシア入門 / 目の見えない人は世界をどう見ているのか / 日本手話とろう教育 / 言葉のバリアフリー / スローコミュニケーション / わくわく! 納得! 手話トーク / 計9冊

本を読んで感じたこと、本の紹介などは以下の記事を御覧ください。

様々な障害について学ぶうち、強く感じるようになったのは、やさしい日本語は外国人、障害者に限らず、子どもたちの役に立つということです。そして、さまざまな障害を持つ子どもが日本語を学ぶハードルの高さについて考えさせられました。また、障害の種類によって、また、同じ障害の種類でも人によって異なることがあるということも感じました(ゴシック体が読みやすいディスクレシアの人もいれば、明朝体が読みやすいという人もいる、なども一例です)。

そして、障害を持つ子どもたちに対して ICTが活用されているということも。ディスレクシアの子どもの教育にタブレット活用とか。

高学年では、デコーディングのスピードの改善を目指すよりも、代替手段を活用して、情報入手を確実にすることに比重が置かれることが増えます。タブレットや読み上げソフトをはじめとするさまざまなICT活用の習得などです。 (中略) 音読・読解用のテキストのフォントは教科書体を使うことが多く、24ポイント程度の大きさで、表記は横書き、分かち書きにし、ふりがなをふります。(中略) そして、子ども1人に1台ずつタブレット端末を用意し、インターネットにつなげられる環境をつくっています。

現状の支援技術で不足しているところ、残り続けるITリテラシーの問題

この、ディスレクシアの子どもに対する「ふりがな」についてですが、読み書き困難であるわけなので、親文字と小さなふりがなが近くに配置されていれば、逆に読みにくさにつながることは容易に想像できます。しかし、日本語を学ぶ過程での「漢字の読み」を学ぶ必要から、ふりがなが必要とされる。「分かち書き」「ふりがな」は<やさしい日本語>にする際に必要なことですが、逆に、分かち書きとふりがながあればそれでOKというわけではありません。行間を空けたり、ルビを大きくしたり、色を変えたり、読みやすいフォントしたり、十分に日本語を学習した後は逆にふりがなが消せるほうが良いでしょう。

ICT活用は確かに有効でしょう。ただ、例えばWebにおいてはブラウザやスクリーンリーダーの「ルビ(ruby, rt, rp要素など)」に対する実装問題などが障壁になることがあり得ます。読みやすいフォントを自分で設定したり文字サイズを変更するにはブラウザの設定変更が必要です。ルビを消したり色を変えたり、行間を広くするなどは、ユーザースタイルシートを使わなければできません。

「文字拡大」ボタンは本当に不要なのか?

小さい頃からタブレット端末を支給されて教育を受けた世代、いわゆるデジタルネイティブな障害者は確かにこれらの技術を習得して活用していくでしょう。支援技術もそのうち上述のルビに対する実装の問題を解決してくれると思います。

ただ、そのような教育や支援を受けていないまま大人になった世代は向こう数10年〜100年はいなくなりません。ブラウザのフォントを変更したり、文字の大きさを変更する方法を知らないユーザーは相変わらずいますし、スクリーンリーダーの存在や使い方を知らないロービジョンの人、ディスレクシアの人は少なくないでしょう。

もちろん、そのような人を取り残さないための継続した教育や技術の進化が必要です。それでも、あってもいいと思うんですよね、文字拡大ボタン。もしろん、それを付けたからアクセシビリティ対応やってます、やってるつもり、てのではダメですけど(あと、そのボタンつけるのに数百万円の見積もりとか、そういうのは、ね)。

※ それでも少なくとも文字サイズ200%にしてもテキストが重なって読めない、読みにくいようなことがないということを検証してるだけマシだと思います。

私たちが運営している「やさにちウォッチ アイコン別ウィンドウで開きます」では、文字拡大ボタンは付けていませんが、ふりがなのON/OFF、分かちがきのON/OFF、書体(フォント)の変更機能を提供しています。将来、この辺の機能がブラウザに標準(フォント変更は現状でも可能)で、使いやすい形で実装されれば要らなくなるものなんでしょうが、それ、ユーザーCSSやブラウザの機能拡張なんかでできるから、無駄だよね? ということはないのだと思っています。

やさにちウォッチの閲覧設定変更機能群

このブログのタグラインは「Webは常に過渡期である」です。現状と理想のギャップを埋めながら、技術の進歩とともに歩んでいく。また、少しでもそれに貢献できるならそうしながらユーザー目線の Webサイトを作ったり、そのお手伝いを続けていきたいと思います。

それでは、最後になりましたが、今年も大変お世話になりました。良いお年をお迎えください。



このブログを書いている人
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野田 純生 (のだ すみお)

大阪府出身。ウェブアクセシビリティエバンジェリスト。 アルファサード株式会社の代表取締役社長であり、現役のプログラマ。経営理念は「テクノロジーによって顧客とパートナーに寄り添い、ウェブを良くする」。 プロフィール詳細へ