アルファサード株式会社 代表取締役 野田 純生のブログ


面白いのは「技術」ではなく「技術の向けどころ」 - 会社とこれまでのこと(2)


公開日 : 2009-09-25 19:40:31


現在絶賛人材募集中 (1) (2) につき連載(?)はじめました。今日は2回目です。

前回、会社のネーミング由来の話を書きました。ちょっと順番が前後しますが、次は先にこのテーマについて書きます。

さて、現状のアルファサードがやっている主な仕事を挙げてみます。

領域:

  • Webサイト企画・設計
  • Webコンサルティング(アクセシビリティ評価/ガイドライン作成)
  • ディレクション
  • Webデザイン
  • サイト実装・構築
  • CMS製品開発/サポート

言語:

  • Perl
  • JavaScript
  • PHP
  • XMTML/HTML
  • CSS
  • MTML

フレームワーク/CMS:

  • Movable Type

何のことはない。製品開発・サポートとアクセシビリティがメニューに入っていることを除けばどこにでもあるWeb制作会社です。これくらいの言語扱えてCMSとしてMT使ってってとこだけ見たらこんな会社いっくらでもあります。会社はじめた頃先輩に言われたことあります。「Web制作会社って雨後のタケノコみたいに出来たり(なくなったり)するやん」。(付け加えて「何かお前のとこは違う、ってのは伝わってきた。けどそれが何かはわからんけど」とも言ってもらえたけど)。

当時はREALbasicとか使って簡単なデスクトップアプリ作ったり、ExcelとPhotoshop連携させて(AppleScript!)CMSっぽいワークフロー組んだりしてたのが特徴っていや特徴かもしれませんが。

さて、会社をはじめてしばらくはWebと名のつくものであれば何でもやってました。営業については人脈をたどり、紹介をもらい、イベントに出て行ってプレゼンし、BtoBサイトに登録して案件に応募してたりもしてた。上流から下流まで、コンサルから実装・開発まで。

でも、儲かんなかったですね。人も定着しなかった。一応、2003年から一回も赤字は出してない、という事実だけは胸をはっていましたけど、決して正しいことできてたわけじゃないですね。今はそれがわかる。

儲けはともかく人が定着しなかった理由について自分自身が思うところはこうです。自分自身は営業畑、マーケの人出身だけどどっちかと言えば自分で何でもやっちゃうところがあり、企画から外注の手配、進行の管理からバックエンドの実装までこなしてしまうようなところがありました。ひとつは、これをスタッフに求めたこと。もちろん同じレベルででけへんってのはわかっていましたけど、結局マルチにこなせて幅広い領域を個人がカバーできる会社は強いって、当時は本気で思っていたところがあります。

もうひとつは、上流工程や企画、提案の難しさです。単に難しい、というより、教えること、人を育てること、優秀な人材を採用することが難しい。大きな会社でも歴史のある会社でも、そういう人材を採用・育成するのに苦労してる。それをポッと出の知名度もないSOHOに毛の生えたような会社が採用・育成できるだろうか?

何度かターニングポイントがあり、結論出しました。「これでは無理」。

その頃、CMSやWebアプリの開発とかカスタマイズの仕事がぽつぽつ増えてきていました。当時のスタンスは、適材適所、パッケージは持たない、決めない、案件、顧客要求にあわせて最適なものを入れる。Xoopsにするか、Drupalにするか(<これは扱ったこと実際にあります)、はたまたMTか、Type3やMODxもある。「何でもこれで」「何でもMTで」ってのは間違った考えだと思っていたのです(ある見方をすれば今でもこれは正しいわけですが)。

ある案件でMTをベースに構築しました。かなり強引に拡張開発をして(初MTです)。2006年だったかな。で、問題は次の案件。納期は迫るのに実装方針やフレームワークもベースのシステムも決まらない。人手もない、かなりやばい。ここで「MTでいいじゃん」という判断をした。MT::Objectを使ってDBを扱う方法は前の案件でわかっていたし、プラグインやアプリの開発方法も何となく理解していた。何より3ヶ月くらいがっつり開発した案件の直後の案件です。

ということでMTに進みました。この件は単独でまた書きます。なぜMTだったのか。

とはいえ、MT取り組んでる制作会社ってたくさんあるし、ウチは他の会社と比較したら多分遅いほうじゃないでしょうか。個人的には3.3からのユーザーだし。

ただ、一点だけ(多分)他の会社と違うことをやった。管理画面に目を向けたことです。

多分、Web制作会社がMTをさわるってことは、MTMLでテンプレートを書くことです。少なくとも当時の使い方はそうでしょう。せいぜいがプラグイン探してきて放り込むくらい。実際にウチのスタッフもそうだった。でも僕は完成されたサイトのCMSを見て「なんて使いにくい」って指摘しました。

表示順を定義するためのフィールドに振られた数字。インデックスアーカイブに表示させるためだけのダミーエントリー、ダミーエントリーが吐き出すゴミファイル。ファイルをインクルードしたテンプレート(検索できない)。サイト・パスが同じブログがたくさん。入力はルールだらけ。

結局、MTだってJavaScript、Perl、MTML(当時はHTML::Template)で出来ている。なら、自分たちが持っているスキルをそこに突っ込んで、ユーザーにとってすぐれたCMSにしてやろう。

これが今から考えれば転機だったのでしょう。こういうことをやっている会社が当時はほとんどなかった。技術は公開されるサイトに向けられる。でもCMSで構築・運用するサイトのユーザーは、公開されたサイトのユーザーだけじゃないのです。CMSをさわるユーザーも大切なユーザーです。

Webアクセシビリティやユーザービリティの本? には当然のように書いてある。フォームの入力値の制限のうち、サーバーサイドで吸収できるものは吸収すべし。全角で入力したって怒らないでくれ。ところがCMSのドキュメントには入力する人が統一してね、って書いたりしてる。それが間違いだってんだ。

やってみると不思議なもので、そこに目を向けると(標題でいうところの「技術の向けどころ」)、できるんですよね。自分じゃなくても。ウチのスタッフたちが。で、こういうところはどんどん吸収して覚えていく。上手くなっていくんです。上流工程を教える難しさ、その部分で成長するスピードと比較にならないくらいスキルアップしていく。そりゃそうですよね。ある意味それがやりたい奴が集まってるんだもの。Web制作会社なんだから。

だから、(X)HTMLとCSSだけやってる人は先がないよ、みたいな話で、じゃぁディレクションに進むのか、とか悩んでる人がいたりする業界なわけですが、コーディング好きな人は生活のためとはいえ違うことしたいわけじゃないですよね。ここで書いたこと(マークアップエンジニアが次に取り組むべき5つのテーマ)と通じるんですが、「技術の向けどころ」を間違えなければ、実装屋にもチャンスはまだあるってことです。

で、ここでコンサルトか上流の仕事をきっぱりやめた。コンサルしない、営業も置かない。専任のディレクターも置かない。

話を戻します。「技術の向けどころ」という話をすれば、例えばウチで扱っている言語とか持っているスキルでどうやって食っていくかと考えたとき、向ける先は現状では限られますよね。

  • 受託で食う
  • 自社でサービス(またはメディア)を立ち上げてユーザー課金して食う
  • 自社でサービス(またはメディア)を立ち上げて広告で食う
  • OSS扱ってサポートで食う
  • ノウハウで食う(セミナー、書籍とか)
  • サーバー/ASP/Saasで食う
  • Webアプリをライセンス販売/サポートして食う

同じ技術を元に食っていくわけですが、食い方にも色々あるってことなのです。現状ウチの会社は上記の最初と最後でやっていってます。もちろんこれから別のこともやっていくことはあると思いますが、「何で食うか」だけでなく「どう食うか」っての「技術の向けどころ」なわけです。

少し長くなったので続編も書くかもしれませんが、もう一点だけ。

ウチの会社では「Power CMS for MT」ってのをリリースして間もなく2年。これまで120サイトで導入いただきました。

これ、OSSではないし、数万円のソフトでもありません。最低で20万円から、MTのライセンスも含めると25万円〜200万円(MTE込みだと)の製品です。昨年の秋に金融ショックがあって景気が悪くなるという話になりましたよね。この時、一つの予測と判断をしたのです。社内に向けてこう言った。

  • これからは、安いのが売れなくなるで。値段上げるよ。

WordPressもあるしMTOSもある。景気が悪い。だから20万円のは売れなくなるということです。じゃぁ、値段上げるのは何故か? 簡単です。20万円の予算は0になるけど、500万円の予算は0ではなく250万円になったりする。予算1,000万円の案件が500万円になったとき、500万円のCMSは導入できなくなるわけです。なので、200万円で500万円の製品と遜色ない機能や使いやすさを実現できれば、それは売れるんじゃないか、ということ。

で、今ですが予測は自分でも驚くくらいに当たりました。見事にそうなってる(安い価格のものは売れなくなり、高いもの(それでも競合よりは安い)が出ている)。何故、どのマーケットに、何を、どのように投入していくか。僕は技術者である前に経営者だから、それが面白い。「技術の向けどころ」を考えて、それが結果にはねかえってくるのが面白い。現場の技術者がそこで面白さを感じるかどうかはまた別の問題ですが、経営者とか上層部がしかめっ面してて楽しく仕事ができるかよ、って思うのですね。

もちろん、そこが伴わないと会社が存続しないし(どっかに買われればまだいい方だけど無くなっちゃったりするしね)、急にモノ一つ買うのにハンコが増えたり、賞与が続けて出なかったり給与がカットされて面白いかね? 面白くないと思う。

だから、やっぱりこう思うのです。

面白いのは「技術」(だけ)ではなく「技術の向けどころ」なんだって。



このブログを書いている人
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野田 純生 (のだ すみお)

大阪府出身。ウェブアクセシビリティエバンジェリスト。 アルファサード株式会社の代表取締役社長であり、現役のプログラマ。経営理念は「テクノロジーによって顧客とパートナーに寄り添い、ウェブを良くする」。 プロフィール詳細へ